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ワイスピに出てきたゴッド・アイは実現可能なのか

ワイスピに出てきたゴッド・アイは実現可能なのか

ワイルド・スピードが好きで、シリーズほぼ全作観ている。そのなかで2017年公開の「ICE BREAK(Fast 8)」に登場した「ゴッド・アイ」というシステムがずっと頭に引っかかっていた。世界中の監視カメラ、スマートフォン、衛星をリアルタイムで統合し、特定の人物を地球上どこでも追跡できる全能の監視システム——映画的な大げささはあるにしても、「これ実際どこまで実現可能なんだろう」という疑問があった。

調べてみると、技術的な話と社会的・倫理的な話が複雑に絡んでいて、なかなか興味深かったので整理してみたい。

ゴッド・アイの「仕様」を整理してみると

映画でのゴッド・アイは、大ざっぱに言うと以下のような機能を持っていた。世界中のセキュリティカメラやドローン、衛星、個人のスマートフォンのカメラにアクセスし、特定人物の顔認識・車両追跡をリアルタイムで行う。逃走経路の予測もできる。単一のシステムからほぼ遅延なく世界規模の追跡ができる、という設定だった。

映画としての誇張は確かにある。「全世界のカメラに瞬時にアクセス」という部分は、ネットワーク遅延や帯域幅の問題で完全な意味での実現はかなり難しいだろう。でも「大規模な監視システムで特定の人物を追跡する」という核心的な部分については、現実が思ったよりずっと近いところにある、というのが調べての印象だ。

都市の監視カメラ網
現代の都市部の監視カメラ密度は、映画のシナリオを現実に引き寄せている

現実にあるシステムを見てみると

NSAのPRISMプログラム

2013年にエドワード・スノーデンが暴露したことで広く知られるようになった米国家安全保障局のプログラムだ。Google、Facebook、Microsoft、Appleなど主要IT企業のサーバーから、メール・チャット・写真・ファイルを収集する仕組みで、対象は建前上は国外の人物だったが、国内も含まれていた証拠が出てきた。

カメラではなくデジタル通信が対象ではあるが、「誰がどこに行き、誰と話し、何に関心があるか」を把握できるという点では、ゴッド・アイと方向性が似ている。当時は大きな議論を呼んだ。

中国の「天網(スカイネット)」システム

中国が整備してきた監視システムで、全国に設置された数億台のカメラとAI顔認識技術を組み合わせたものだ。2018年に、コンサート会場3万人の中から指名手配犯を顔認証で発見したという事例が報じられた。精度や運用規模について様々な数字が出回っているが、少なくとも技術的に相当のレベルに達していることは確かなようだ。

さらに社会信用スコアとの連動で、移動や就職への制限につなげることも可能とされている。ここまで来ると「追跡するだけ」のゴッド・アイよりも踏み込んだシステムになっていて、倫理的な観点での議論が盛んに行われている。

スマートフォンの位置情報

最も身近な例かもしれない。スマートフォンは常時、位置情報をサーバーに送信している。Googleマップの検索履歴はGoogleが保持しており、法的要請があれば捜査機関に提供される。アメリカでは位置情報ブローカーが法執行機関にデータを販売していた事例が確認されていて、令状なしの取引もあったとされる。

技術的な実現可能性を少し詳しく見てみると

ゴッド・アイが技術的にどこまで実現可能かを考えるとき、いくつかのポイントに分けて見るとわかりやすい。

顔認識の精度については、現在のAIは高照度・正面の条件では99%以上の精度を達成している。マスク着用・横顔・夜間は精度が落ちるものの、複数カメラの組み合わせで補完できる面もある。

カメラの数については、中国が2023年時点で約5億台、アメリカで約8500万台の監視カメラが稼働しているという推計がある。都市部では「どこにでもカメラがある」に近い状態になっているところもあるようだ。

データ処理のコストについては、GPUとクラウドの普及で映像データのリアルタイム解析コストが下がり続けている。「都市規模の映像をリアルタイムで処理する」という部分の技術的ハードルは、数年前より確実に下がっている。

「全世界のカメラを一つのシステムで」という部分だけは、現時点でもネットワーク的な限界がある。ただし「一国内」「一都市内」に範囲を絞れば、技術的な実現可能性はかなり高くなる。

顔認識AIシステム
顔認識AIの精度は急速に上がっていて、応用範囲の議論も広がっている

技術的に可能なことと、社会が許容することの違い

技術的に可能なことと、社会が許容することは別の話だ。この点がとても大事だと思う。

EUでは一般データ保護規則(GDPR)により、公共空間でのリアルタイム顔認識は原則として厳しく制限されている。法執行目的でも相当の要件が必要で、「使えるから使う」とはならない法的な枠組みがある。

日本では個人情報保護法の改正が進んでいるものの、監視カメラと顔認識の組み合わせに関する国レベルのルールはまだ整備途上だという印象がある。渋谷区など顔認識に条例で制限をかけた自治体も出てきているが、議論はこれからという部分も多い。

「安全のための監視」と「プライバシーの保護」のトレードオフは、簡単に答えが出る問題ではない。事件が起きるたびに「もっと監視を強化すべき」という声が強まりやすく、「緊急時の例外措置」が気づかないうちに常態化していく、という懸念は各国の研究者・弁護士が指摘している。このバランスをどう取るか、という議論は今後も続くだろう。

「すでに追跡されている」という感覚について

ゴッド・アイは「一つの巨大なシステム」として描かれているけれど、現実の世界では「たくさんの小さなシステム」が分散して似たようなことを担っている面がある。

スマートフォンのアプリには平均で数十のトラッカーが含まれているという研究がある。SNSは投稿・閲覧履歴を記録し、地図アプリは移動履歴を把握している。クレジットカードの利用記録は行動パターンを示す。バラバラに存在するこれらのデータを組み合わせると、相当に詳細なプロファイルが形成できる。

これが「監視」かどうかは見方によるかもしれない。多くの場合は便利なサービスの裏側の話として受け取られている。ただ、「自分のデータがどう使われているか」について意識的でいることは、これからの時代に必要なリテラシーになっていくような気がしている。

ゴッド・アイが現実になる日が来るかどうかは分からないけれど、「監視技術と社会のバランスをどう設計するか」という問いは、映画の中ではなく今まさに議論されている話だ。技術がどう発展するかと同じくらい、それをどう使うかを社会が決めていく過程が大事なんだと思う。

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